ピコシムのブログ

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アパート孤独死で死臭被害 『濡れた子犬作戦』で最低限補償してもらった話

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こんにちは、ピコシムです。

前回は、アパートの隣人が孤独死したと不動産屋に連絡した話でした。

今回は、不動産屋との死臭が原因の補償等の交渉について書きます。

死臭等の被害は、その補償責任は、孤独死した人の遺族にありますが、行方不明だったり経済的に支払いが困難場合が多く、被害者は泣き寝入りすることが多々あります。

 

我が国では年間3万件の孤独死が発生しています。あなたの隣の部屋の人が死んでいても、すぐに発見されるとは限らないのですから。

 

(この話は事実を元にしたフィクションです)

 

当時の私は20代で、関東某県の大学院を卒業した後、郊外から東京まで通勤する生活を送っていました。ところが、真夏に、自分の住むアパートの隣の部屋の老人が孤独死し、発見が遅れ腐敗した遺体が原因で、私の部屋は猛烈な死臭が漂う部屋になってしまいます。

不動産屋「ホテルへの避難、家財補償は一切できません」 

孤独死物件を管理している不動産屋は、全国展開をしているチェーン店舗です。朝10時の開店と同時に電話連絡して、事情を説明しました。

部屋の隣の人が死後9日以上で発見されたこと、夜中に警察がきて処理をしたこと、1週間以上死臭が部屋を汚染していること。死臭部屋になって困っていることを切実に伝えます。

応対した20代ぐらいの少し太めの男性店員は、

「そうすかー、それは大変ですね〜」と他人事のような対応です。

とりあえず、店舗に出向いて更に説明をします。しおらしい雰囲気の20代の女性が応対してくれましたが、事故物件自体が不慣れのようで、オロオロしています。

しょうがないので、店長に相談してみることにしました。

店長は30代ぐらいの小太りの男性で、ストライプ柄のダブルスーツを着た、いかにも不動産屋という雰囲気。

で、伝えられたのは以下の内容

  • 避難用のホテル等は用意できない
  • 家財道具の補償はできない
  • 火災保険の適用もできない
  • お見舞金等は一切出せない

の一点張りです。

私は納得出来ないので、

「そもそも御社の物件管理に問題はなかったんですかね。現在も死臭が漂っている部屋に、今日も帰って寝泊まりしろということでしょうか」

と、やや控えめに言うと、店長は

「申し訳ありませんが、弊社ではお客様へのご意見を頂戴して、今後の不動産管理に生かしてまいります」

と、馬耳東風の様相。

どうにもならないと悟ったので、一旦撤退して出直すことに。 

 

不動産業の知人に相談

その夜、知り合いの不動産屋さんのMさんに連絡。Mさん50代ぐらいの女性で、当時で、勤続15年以上も地場の不動産屋のスタッフをしている方です。

Mさん「ピコシム君、もう大変だったね〜、大丈夫、元気?」

私「もう毎日信じられないぐらい臭くて大変ですよ、死臭スーツで通勤すると他のひとの視線がきつくて」

かなり心配してもらい、一般的にどんな対応を不動産業者がするのか、交渉方法について教えてもらいました。

  • 普通はホテルや代替物件を用意して居住者を避難させる
  • 見舞金等は大家さんの了解が必要
  • 管理会社は孤独死で事故物件になった噂を立てられたくない
  • 孤独死した親族が見つからないと、アパートの修繕費用、補償等は全額大家負担
  • 修繕費、特殊清掃等は数百万単位で費用が発生
  • そもそも不動産屋の応対が良くない

作戦会議

当時、友人N君の自宅に一時避難して、何日かぶりに死臭のない部屋で心安らかに生活をしました。友人からよくあんなめちゃくちゃ臭い部屋に1週間もいましたね、本当にピコシムさんは神経が太いですよね。などと言われながらコーヒーを飲みつつ作戦を立てました。

それと同時に、ネット上から事故物件発生の際の、一般的な事例をリサーチ

  • 心理的瑕疵物件(事故物件)の補償の傾向
  • 死臭等の悪臭対策費用
  • 貸主が孤独死した遺族に請求できる傾向

当時はあまりネットで情報が掲載されていませんでしたが、管理会社、貸主は被害者のため、実質的な請求先は、孤独死した借主の遺族になります。

ところが、50代独身男性が独居孤独死するというのは、単身世帯で、身寄りがなく、親族もおらず、生活保護世帯である可能性が高く、その場合、貸主(家主)は、修繕費用や他の借主の補償費用を請求できません。

既に警察は孤独死した親族の身寄りを探している段階でしたが、見つかる可能性は低く、結果的に死臭被害に困る借主は泣き寝入りになる可能性が高いのです。

いかに、貸主(家主)に無理のない範囲で、死臭対策費を拠出してもらうかが、鍵となります。

作戦は以下の通り

  • 私と友人N君2人で不動産屋を訪れる
  • 私が交渉役、友人N君は弁護役
  • 友人H君は、あとから来るサクラ役
  • 死臭つき衣類をスーツケースに入れて持参

再び不動産屋と交渉へ

翌日、不動産屋がお見舞金を支給すると連絡がありました。金額は知らされぬまま、友人と不動産屋に再来店します。

時刻は昼の12時過ぎ。交渉は2時間以上に及びました。

私「もう1週間以上、死臭のついた部屋にいて正直困っているんですよね、そもそも一般的にはホテル等に避難させたりするのに、今日もあの臭い部屋に帰って生活してくださいってかなり厳しいですよね」

店長「申し訳ございません、社長から特別にお見舞金1万円でご納得して頂ければ・・・」

N君「そもそも御社の管理に問題が遭ったのに、1万円で2日分しかホテルに泊まれないですよね。2日後には私が借りている部屋が、死臭がない状態のレベルで原状回復は可能なんでしょうか」

店長「・・・」

交渉は暗礁に乗り上げました。既に1時間も話しています。

時間もあまりないので、一気に心理戦で追い込むことにしました。

サクラの友人H君が

私と、友人N君が店長と交渉している間、サクラ役の友人H君が店内に入って賃貸物件を調べにきました。彼には20代のショートヘアーの女性店員が対応しています。

頃合いを見計らって、友人N君が、「一体いつになったら、アパートの死臭が無くなるんですか、もうピコシムさんは10日間もあの老人が孤独死した、死臭がひどい部屋に住まわせているんですよ」と語気を強めます。

 

その話を耳にした客役のH君が、驚いたような態度で「もしかしてアパートで人が死んだんですか?マジですか、腐って死んでるってヤバイですね!」と女性に真顔で聞くと、

「いいえ違います、そんなことはないですよ・・・」

女性店員は、どう対応すればいいか分からず、うつむき加減です。

カウンターの奥にいた20代の男性店員は、動揺を隠せない女性店員のフォローに入りました。

『濡れた子犬作戦』を決行。臭いが充満する部屋に住む哀れな借主に同情してもらう

さらに、店長を畳み掛けて同情してもらうために、濡れた子犬作戦を実行します。

濡れた子犬作戦とは、暗い夜道、泥だらけでズブ濡れてブルブル震える子犬のように、困って哀れな様相から同情してもらい、なんとか良い条件を引き出して貰う手法です。

押してだめなら引いてみて相手の出方を伺います。

 

店長も私達も深い沈黙の中、

私「店長、いや本当にあの死臭に困ってるんです、もう精神的に参っちゃって大変なんです。。。」渾身の演技で目に涙を浮かべ切実さを訴えかけます。

店長「お気持ちはお察ししますが、、、」

 

店長も若干同情しはじめていますが、もう少し良い条件を引き出す必要があります。お見舞金1万円では、生活再建とは程遠い。というか自分の生活が死ぬ。

 

私「もう毎日、毎日。こんな臭いで困ってるんですよ・・・」

スーツケースに入るだけ詰め込んだ死臭まみれの下着、ジャケット、スーツは、チャックを全開に開けた瞬間、あのイノシシが腐った猛烈な悪臭を解き放ち、30平米あろう店内はあっという間に、死臭の拡散で空気が澱みます。

店長は顔をしかめ、息を止め、ハンカチで鼻と口を覆い、女性店員はすでに半泣き状態で咳き込み、20代の男性従業員はカウンターの奥にあるトイレに逃亡。

 

「亡くなった方の部屋だけでなく、あのアパート全体がこんな臭いで困っているんです。特に隣の部屋は本当に酷いんです!毎日毎日、人が腐った臭いで家財も下着も臭いが取れません!アパート全体を脱臭してください!それまで別の物件に避難させてください!」 

私の切実な嘆願と、2人の友人による迫真の演技により、店長はようやく重い腰を上げて、本社と大家に連絡してくれました。

お見舞金

その後、現状の私の死臭部屋を脱臭範囲にするか、お見舞金渡して引っ越してもらうか、不動産会社に選択してもらえることになりました。

熟慮して頂いた結果、お見舞金を頂くことにしました。

金額は10数万円、さらに当月と来月分の家賃をゼロにする、敷金はそのまま返却することが決まりました。

家財等は全て破棄することにして、不動産屋が片付けてくれることになりました。

その日の晩、協力してくれた友人N君とH君にはお礼に、ファミレスでステーキをご馳走して、翌日から私は生活再建に取り掛かることになりました。

引越し

2年近く住んだ、あの怪事件のアパートもお別れです。

家財道具もろとも破棄することとなり、突然の40万円近い出費は、当時の私にとってはかなり負担でした。

着の身着のままというのは、まさに文字どおりで、最低限の衣類と、カバンひとつ、ダンボールに、PCと、修士論文と、専門書に詰め込み、学生時代から数年来住んだ街を離れ、東京に引っ越しました。

後年振り返って

今から考えると、2010年代初頭の不動産との交渉は、相当無理なことをしました。まだ社会人として日が浅く、お金もなく若さゆえ引くに引けない状況だったのだと思います。

近年の不動産業界の通例では、孤独死が原因の悪臭等の問題は、管理会社、家主に落ち度がないため、孤独死した遺族と、その建物の借主が個別交渉する場合が多いようです。

ところが、孤独死した人が生活保護世帯だったり、親族がいない場合は隣の住民は、リフォームが終わるまで死臭の中生活しなければなりません。

引越しも入居者負担、衣類の死臭付着もクリーニング代は100%自己負担です。当然補償もなく泣き寝入りになります。

家主、管理会社、借主は、共通の被害者で、一旦物件で孤独死が発生すると、その被害は多大です。

当時は、賃貸建物オーナー向け特約で、事故物件対応の保険はまだ世の中にはありませんでした。

2014年頃からは、火災保険各社が発売し始め、家主向け火災保険特約に入っていれば、月額プラス300円程度で100万円程度の修繕費と家賃保証をつけることができるようになりました。

 

一方で、借主は突然の事故に巻き込まれ、平穏な生活を奪われてしまいます。借主の火災保険は、隣人の孤独死による死臭被害には効かないので、一方的不利益を被ることには代わりありません。

 

☆☆☆

 

他の人のブログを見て、私と同じような境遇の人が多くいました。人によっては隣人が孤独死した精神的ショックで思い詰めてうつ病発症の原因になるようです。

隣人が孤独死(孤立死)するということ-1 | リョウセンノキヲク

 

幸い、私の場合は、隣人が壁一つ隔てた部屋で遺体が腐敗して、自室が死臭まみれになっても、相変わらずその中で自炊をして寝起きを続けていました。ノーテンキな性格が幸いしたようです。

 

☆☆☆

 

結局、男性の死因は自殺か他殺、病死なのかははっきりせず、警察からも事情聴取も一切ありませんでした。

あの△△△号室の不気味な40代女性は、一体何者だったのか。彼女が殺したのかははっきりせず、不気味だと言うコメントが多く寄せられました。

もし、コナン君がいるなら、「独居老人怪死事件」の真犯人を突き止めるかもしれませんが、私はコナンくんではないので、真実はいつまでも闇の中です。

 

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最後までお読み頂きありがとうございました。

次回もお楽しみに。

 

 

 

 

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